歌舞伎座4月公演は昼、夜と共に上演回数の少ない作品を取り上げた、見所いっぱいの内容だった。明治150年記念として「西郷と勝」、「表裏先代萩」を取り上げた。
江戸城無血開城をめぐる勝海舟と西郷隆盛との会見を取り上げた「西郷と勝」は、坂東彦三郎、中村錦之助が光る。殊に傑出していたのが尾上松緑である。一人の犠牲も出さずに、平和裏の内に開城せんとする西郷の心境を赤裸々に演じ、役者としての進境著しいところを見せた。それが、勝海舟の心も動かした。勝も外国の干渉を恐れ、平和にことを収め、新しい世への橋渡し役となる。
明治維新後、西郷は西南戦争で敗死、勝も明治政府に取り立てられ、生き延びることとなった。歴史の皮肉だろうか。
「表裏先代萩」は仙台藩、伊達家の御家騒動をもとにしたもので、「伽羅先代萩」が知られている。これは文政3(1820)年初演で、仁木弾正、政岡が「表」、町医師大場道益と下男小助が「裏」といったパロディー版と
なっている。大場道益、宗益兄妹は仁木から200両を受け取り、足利の跡取、鶴千代を毒殺せんとして毒を調合
する。一方、下駄屋に奉公する娘、お竹を手を出す道益。下男小助は200両を狙う。道益を殺し、金をせしめてほくそ笑む。鶴千代を守らんとする政岡、その一子千松。そこへ山名宗前の正室、栄御前が見舞いの菓子を持って来るが、道益の毒があった。千松が身代わりになって犠牲となる。敵の八汐を討ち取る。お家乗っ取りを企む仁木弾正の企みは、小助の道益殺しがきっかけとなって明るみとなり、鶴千代の家督相続も実現する。
尾上菊五郎が仁木、小助を見事に演じた。中村時蔵の政岡も光る。尾上松緑、中村錦之助、中村東蔵、坂東亀蔵も舞台を盛り立てた。上演バランスも十分だった。
今後、歌舞伎座でも上演回数の少ないものをどしどし取り上げ、演目を増やしてほしい。
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