西原稔は、ブラームスの協奏曲をドイツ・ロマン主義音楽との関連から論じ、19世紀ドイツ・ロマン主義音楽におけるブラームスの位置付けを行った。その点から見ると、優れた研究書だろう。
まず、ピアニスト、ブラームスに始まり、19世紀のピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲の歴史を論じ、ブラームスの音楽の響きがシューベルト、メンデルスゾーン、シューマンからの影響を受けたことを裏付けている。
ピアノ協奏曲、第1番、Op.15は2台のピアノのためのソナタを基にし、交響曲へと発展、ピアノ協奏曲へと発展していった。オーケストレーションでのヨアヒムの助言、第2楽章でのパレストリーナ研究の成果、第3楽章でのベート―ヴェンの影響、バロック音楽研究の成果を詳細に論じている。
1938年に発見されたピアノ3重奏曲について、ブラームスの真作ではなく、偽作と結論づけている。これは、様々な研究の成果による。
ヴァイオリン協奏曲、Op.77は、ヨアヒムの協奏曲との比較から、ベートーヴェン、メンデルスゾーンの流れを引き継ぎ、古典性を強調することで、かえってブラームスの音楽の本質に迫ったと言えようか。
ピアノ協奏曲、第2番、Op.83は4楽章構成、交響曲との融合、バロック音楽研究の成果、歌曲との繋がりに触れながら、この協奏曲の意義を再評価している。
ブラームスが作曲したピアノ協奏曲のカデンツァは、ピアニストとしてバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を演奏した際、作品をどのように捉えたかも示している。19世紀のピアノの発展にも触れ、ブラームスの音楽を考えるためにも貴重である。
ヴァイオリンとチェロのための2重協奏曲、Op.102がチェロ協奏曲として着想されたものの、アマーリエ夫人との離婚裁判がきっかけでヨアヒムとの仲が途切れたこともあって、この形を取った。そこには、ブラームスの音楽の一つの集大成、到達点となったことを裏付けている。
最後に、ブラームスと20世紀前半の音楽史を概説することによって、ブラームスの位置を再確認することが可能となったことがわかる。
ただ、いくつかのミスプリントがあったことが残念である。再販の際、訂正することを望む。
(芸術現代社 2000円+税)
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