柴田克彦 山本直純と小澤征爾

 真の天才、クラシック音楽の普及に生涯を奉げた山本直純。スクーターでヨーロッパに渡り、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝、カラヤン、バーンスタイン、ミュンシュに学び、文字通り「世界のオザワ」となった小澤征爾。この2人は指揮法の祖、斎藤秀雄の下で学び、小沢は頂点を目指し、山本は底辺を作った。この2人の友情が今日の日本のクラシック音楽の基盤を作った。

 2人は、1972年に起った日本フィルハーモニー交響楽団存続問題に奔走、小澤が昭和天皇に直訴したことは話題となる。この事件は、日本のクラシック音楽のあり方を根本から問い直すこととなった。山本、小澤が新日本フィルハーモニー交響楽団を創設した。従来の日本フィルハーモニー交響楽団も市民と共に歩むオーケストラとして再出発した。

 1972年、山本が新日本フィルハーモニー交響楽団を中心とした、TBS系列の音楽番組「オーケストラがやって来た」を創始、1983年3月27日までの11年間にわたり、クラシック音楽の普及・啓蒙活動を進めた。小澤も出演している。その要因には、レヴェルを下げない、出演者たちが全身全霊を込めて取り組んだことにある。また、世界的な演奏家たちも登場したことも大きいだろう。

 小澤が世界に君臨、山本は生涯にわたり、クラシック音楽の普及に努める。1983年の大阪城築城400年記念として「1万人の第9」の指揮、ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラの育成にもあたった。「音楽を広める」ことを使命とした人生が伝わって来る。

 作曲家としての山本は、森永エールチョコレートのコマーシャル音楽「大きいことはいいことだ」、映画音楽「男はつらいよ」、NHK大河ドラマでは、1976年「風と雲と虹と」、1988年「武田信玄」など、多くの放送音楽を生み出している。童謡「1年生になったら」も名曲である。また、ポピュラー音楽もある。しかし、こうした音楽だけで山本を評価することはどうか。クラシック音楽でも隠れた往作があるだろう。

 柴田克彦は山本直純と小澤征爾の友情を日本のクラシック音楽の両輪として捉え、見事な筆致で描きだした。しかし、両者の年譜があった方がよかったかもしれない。ぜひ、読んでほしい一冊である。

 

(朝日新聞出版 780円+税)