日本ヴァーグナー協会 ヴァーグナー・シュンポシオン 2017

 日本ヴァーグナー協会会誌、ヴァーグナー・シュンポシオンは2017年度版からアルテス・パブリッシングからの出版となった。これは2016年版まで出版先だった東海大学出版会での事情が困難となったことによる。

 今回のテーマは「ヴァーグナーの呪縛」(1)で、森泰彦「ヴァーグナーとブラームス」、谷本愼介「ニーチェと《トリスタンとイゾルデ》」、鈴木淳子「あの時に始まった」、ハンス・ルドルフ・ヴァ―ゲット、杉谷恭一訳「トーマス・マンとリヒャルトヴァーグナー クナッパーツブッシュの場合」、山崎太郎「ラン・ジークリンデ・ラン」には注目すべきだろう。

 森のヴァーグナーとブラームス論はドイツ人のアイデンティティー、ドイツ・ロマン主義音楽の本質に踏み込んだものとなっている。ハンスリックが中心となったヴァーグナー派、ブラームス派の論争以前の本質的な視点から論じたもので、新たな視点を提供している。谷本はニーチェの処女作「悲劇の誕生」には「トリスタンとイゾルデ」があったことに言及、ニーチェ解釈に一石を投じている。鈴木はヴァーグナーとナチズムの本質を大衆心理から解明している。ヴァ―ゲットはトーマス・マンが亡命の道を選んだ背景には、ハンス・クナッパーツブッシュによるナチズムと結びついた排斥運動があったことに触れ、クナッパーツブッシュの負の側面も捉えている。山崎は「ヴァルキューレ」におけるジークリンデに関する新たな解釈の視点を提起した。

 国内でのヴァーグナー上演記録では神奈川県民ホール「さまよえるオランダ人」、二期会「トリスタンとイゾルデ」が注目された。「トリスタンとイゾルデ」は日本のオペラ上演史に残る記念碑的なものだろう。

 国内・海外のヴァーグナー文献を見ると、かなり注目すべき論文・文献がある。訳書出版すべきものがあれば、出版してほしい。

 

(アルテス・パブリッシング 2900円+税)