西阪多恵子 クラシック音楽とアマチュア W.W.コベットとたどる20世紀初頭の音楽界

 西阪多恵子がお茶の水女子大学大学院に提出した博士論文に基づく著作。20世紀初頭のイギリス音楽界における室内楽発展に貢献したW.W.コベット(1847-1937)の生涯、室内楽とアマチュア音楽家、女性の地位向上・社会進出、戦争と音楽の問題をイギリス社会の変遷とともに論じた、優れた内容である。

 中産階級に生まれ、コンサート・オペラを愛し、ヴァイオリンを学び、名器まで所有したコベットは「コベット・コンペティション」を創設、室内楽作品普及に尽力した。また、「コベット室内楽事典」を編纂するほどだった。しかし、ヴァイオリニストの腕前はさほどではなかったという。

 イギリス社会では女性の地位向上に伴い、女性作曲家の育成、音楽家の進出が目立つ。コベットも女性音楽家支援に乗り出していく。また、イギリスの作曲家たちにも無調音楽などの変化が現れて来る。第1次世界大戦(1914-1918)中の兵士たちへのコンサート開催が音楽家救済に繋がった一方、戦争の愚かさも悟る。

 コベットの生涯から、欧米の音楽愛好家たちが楽器を演奏して家庭の団らん、社交を豊かにしたことが窺われる。大田黒元雄、野村光一などが理想とした姿だっただろう。それが、日本の音楽界発展にあまり寄与しなかったことをどう捉えたらいいだろうか。その意味でも一つの問題を提起した好著である。

 

(青弓社 2400円+税)