バッハ・コレギウム・ジャパン 第142回定期演奏会 マタイ受難曲 BWV244

 バッハ・コレギウム・ジャパン、2021年のマタイ受難曲は新世代の音楽家、鈴木優人指揮、日本人ソリストによる演奏で、昨年のキャスティングとほぼ同じだったとはいえ、名演だった。(2日 サントリーホール)

 鈴木優人が初めてマタイを取り上げた時がラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでのコンサートだった。既に、自身のマタイ像を築き上げた鈴木優人が今回のコンサートでさらに深化したマタイを私たちの前に示した。第1曲「十字架の悲劇」からイエスが弟子たちを集め、最後となる過越の食事をする際、弟子の一人、イスカリオテのユダの裏切りを告げる聖書のドラマ、オリーヴ山での祈り、ユダヤ教大祭司カイアファたちに捕えられ、最高法院での死刑判決、ローマ総督ポンティウス・ピラトゥスの法廷で死刑が確定、十字架に付けられ、死を迎え、埋葬に至る悲劇を伝える卓越した演奏だった。最後の別れの合唱は感動的に響く。

 エファンゲリストの櫻田亮、イエスの加耒徹をはじめ、ソプラノの森麻季、松井亜希、カウンターテノールの久保法之、青木洋也、テノールの谷口洋介、バスの加藤博隆の真摯な歌唱が光る。鈴木優人のマタイ受難曲のCD発売も実現してほしい。

バッハ・コレギウム・ジャパン 第141回定期公演 ヨハネ受難曲 BWV245

 バッハ・コレギウム・ジャパン、第141回定期演奏会はマタイ受難曲と並ぶ名作、ヨハネ受難曲、BWV245を取り上げた。(19日 サントリーホール)

 ソリストはエヴァンゲリスト、櫻田亮、イエス、加耒徹をはじめ、ソプラノ、松井亜希、カウンターテノール、

久保法之、テノール、谷口洋介であった。櫻田、加耒の歌唱が素晴らしい。エヴァンゲリスト、イエスを深く歌える歌手は日本ではこの2人だけだろう。殊に、加耒の成長ぶりが見事で、オペラ出演も増えるだろう。松井、谷口の歌唱にも成長の跡が窺える。久保にも成長が窺えた。日本のソリストたちが日々、成長して素晴らしい歌手としてオペラ、オラトリオなどの牽引車的存在になっていく。

 サントリーホールでのヨハネ受難曲は20年ぶりとはいえ、今回の方が深みを感じた。鈴木雅明の素晴らしい解釈力がこの作品をより深みあるものに仕上げている。4月2日、3日のマタイ受難曲もサントリーホールとなる。こちらは新時代の旗手となった鈴木優人で、楽しみである。

バッハ・コレギウム・ジャパン メンデルスゾーン エリアス Op.70

 バッハ・コレギウム・ジャパン、2021年最初のコンサートはドイツ・ロマン主義宗教作品の傑作、メンデルスゾーン、オラトリオ「エリアス」Op.70で幕を開けた。(東京オペラシティコンサートホール)

 メンデルスゾーン晩年の傑作、この時、スウェーデンのソプラノ、イェニ―・リンドとの再婚を考えていたこともあってか、リンドを意識した音域もある。しかし、リンドはメンデルスゾーンの求婚を断った。これがメンデルスゾーンの早世に繋がったと見る向きがある。

 ソリストはソプラノ、中江早希、アルト、清水華澄、テノール、西村悟、バス、加耒徹をはじめ、何人かのソリストたちが加わった。清水・加耒は二期会、西村は藤原歌劇団である。加耒の堂々たる歌唱がイスラエルの預言者、エリアスに相応しいものだった。西村も素晴らしい歌唱で聴かせた。中江が第1部で黒、第2部で赤のドレスを着用して、作品の雰囲気に合わせていた上、歌唱も見事だった。清水もエリアスの命を狙う王妃イゼベルで見せた歌唱も素晴らしかった。

 最近、加耒の歌手としての成長ぶりが著しい。2019年、二期会、黛敏郎「金閣寺」の鶴川からマタイでのイエスをはじめ、ベートーヴェンなどで見事な歌を聴かせ、一級の歌手になりつつある。リサイタルもあるという。西村もリサイタルがある。バッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートでは外国から歌手を招聘することが通例とはいえ、新型コロナウィルスで日本人歌手たちがソリストとなり、見事な歌唱を披露している。日本人歌手たちの成長ぶりにも注目したい。

 鈴木雅明がメンデルスゾーンの音楽をしっかり自らのものとして旧約聖書、列王記、イスラエル王アハブ、バアル神を信仰する王妃イゼベルに対峙する神の預言者エリアスの物語を迫真の音楽として描きだした。アハブはイゼベルと共謀して農夫、ナボトのぶどう畑を横取りした挙句、アラムとの戦争で戦死、イゼベルは孫ヨラムと共にイスラエル王となった将軍、イエフに滅ぼされてしまう。ユダ王ヨシャファトはアハブとの縁組でユダ王国に混乱をもたらした。

 2月はサントリーホール、ヨハネ受難曲となる。楽しみである。

第64回 NHKニューイヤーオペラコンサート

 新型コロナウィルスの中、NHKニューイヤーオペラコンサートも第64回を無事に迎えた。今回は時世を象徴して「夢と希望」をテーマにベートーヴェン、交響曲第9番、Op.125、第4楽章の抜粋、ベッリーニ、ヴェルディ、プッチーニを中心としたイタリア・オペラの名曲、ヴァーグナーを中心としたプログラムとなった。(3日 NHKホール)

 2000年以来NHKホールに来場して21年、世代を代表するオペラ歌手たちの歌を聴きながら、日本のオペラ界、歌手の層が充実してきたことを実感した。歌手陣の世代交代も肌で感じ取ることが出来た。今回の歌手陣を見ると、二期会・藤原歌劇団の比率がほぼ半数であった。出演した歌手たちにとって、新型コロナウィルスで舞台に立てなくなったり、教職もままならなかったりして大変だっただろう。そんな中、このコンサートで音楽の力、歌の力を再認識した。

 歌手陣では、福井敬・村上敏明・望月哲也・妻屋秀和・森麻季・大村博美・幸田浩子・砂川涼子・林美智子といった、日本オペラ界をけん引する歌手たちが素晴らしい名演を聴かせた。また、新進の宮里直樹・伊藤晴をはじめ、油が乗って来た中村恵理・森谷真理・笛田博昭・上江隼人たちの歌唱にも聴かせる力があった。最後はヨハン・シュトラウス2世「こうもり」から「ぶどう酒の燃える流れに」で締めくくりとなった。何よりも、広上淳一が東京フィルハーモニー交響楽団から渾身の響きを導き、歌手たちをしっかり支えたこと、新国立劇場合唱団・二期会合唱団・藤原歌劇団合唱部の見事な響きが彩を添えた。

 今年のオペラ界が新型コロナウィルスを乗り越え、どのような発展を見せるかに期待しよう。

 

ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ニューイヤーコンサート 2021

 2020年から全世界を襲い続ける新型コロナウィルスにも関わらず、2021年のヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ニューイヤーコンサートはリッカルド・ムーティのもと、無観客による開催となった。

 ミラノ・スカラ座を長年にわたって盛り立てたとはいえ、スカラ座を追われてもヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ニューイヤーコンサートの指揮台にも立ってきた。それだけ、ムーティへの信頼が厚いことを裏書きしている。

 プログラムにはイタリアゆかりの作品、ヨハン2世、新メロディー・カドリーユにはイタリア・オペラの旋律を含んだもので、イタリア・オペラの巨匠としてのムーティの面目躍如たるものがあった。美しき青きドナウ演奏の前、ムーティが新型コロナウィルスの中、音楽が希望をもたらすことをメッセージで伝え、ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団の楽員達の新年の挨拶が続いた。

 私たちは、新型コロナウィルスの中、コンサート・オペラ・バレエなど、舞台公演の中止・延期が相次いだ3月から6月までのことを思うと、今、音楽の力を改めて感じ取るには良い機会だろう。美しく青きドナウ、ヨハン1世、ラデツキー行進曲で締めくくりとなった。ただ、聴衆の手拍子がないことが寂しい。来年こそは復活することを切望する。

バッハ・コレギウム・ジャパン ベートーヴェン 交響曲第9番 Op.125

 バッハ・コレギウム・ジャパンがベートーヴェン生誕250年記念として、交響曲第9番を2回公演に分けて取り上げた。(東京オペラシティ コンサートホール 14:00)

 まず、鈴木優人のオルガンでバッハ、パッサカリアとフーガ、BWV582が演奏された。バッハの素晴らしいオルガン作品を耳にした後、交響曲第9番となった。

 鈴木雅明の素晴らしい解釈・統率力からベートーヴェン最後の大作、交響曲第9番がその姿を現した。もっとも、交響曲第4番、第5番を手掛けた自信に裏打ちされているからだろう。第1楽章のたたみかけるような演奏、第2楽章の推進力の素晴らしさは圧巻。第3楽章の深みある歌も忘れ難い。第4楽章。ソリストはソプラノ、森麻季、アルト、林美智子、テノール、櫻田亮、バス、加耒徹であった。加耒の堂々たる独唱から、シラー「歓喜に寄す」が歌われる。櫻田、森、林の歌唱も見事だった。ベートーヴェンが自由・平等・博愛を掲げたフランス革命の精神を高らかに歌い上げた名演だった。

 2020年は新型コロナウィルスのため、多くのコンサート・オペラが中止、延期となった。そんな中で、生誕250年を迎えたベートーヴェンを記念した交響曲第9番で締めくくったことは大きい。2021年、バッハ、ヨハネ受難曲となる。楽しみである。

バッハ・コレギウム・ジャパン 第138回定期演奏会 結成30周年記念コンサート

 バッハ・コレギウム・ジャパン、第138回定期演奏会は結成30周年記念コンサートとして、第1回演奏会で取り上げたバッハ、カンタータ第78番「イエスよ、あなたはわが魂を」BWV78、マニフィカート、BWV243、鈴木雅明のオルガン独奏でファンタジアとフーガ、BWV542を取り上げた。

 このプログラムを取り上げた大阪、いずみホールでのコンサートでは、バッハ学者で国立音楽大学で長く音楽学学科の教鞭をとられた磯山雅氏の影響があったという。その磯山氏が大雪がもとで急逝されたことを思うと、感慨深い。また、合唱メンバーには二期会会員も参加、オペラで活躍する人材もいる。穴澤ゆう子、田村由貴江、小田川哲也、萩原潤、最近では大井哲郎、加耒徹などがいる。

 今回は首席指揮者となった鈴木優人が素晴らしい統率力を見せ、カンタータでの深い情感、聖書の言葉の意義をことごとく捉え、深みある表現を見せた。マニフィカトでのイエス・キリスト生誕への喜びが伝わって来た。

 ソリストでは松井亜希、澤江衣里、青木洋也、櫻田亮、渡辺祐介の歌唱が素晴らしい。終演時のカーテンコールで鈴木雅明、優人親子への惜しみない拍手も忘れ難い。ことに、父親を超える活躍ぶりを見せる鈴木優人の存在がかえって大きくなっている。

 27日、ベートーヴェン、交響曲第9番、2021年1月17日、メンデルスゾーン「エリアス」も聴き逃せない。楽しみである。

ゲルハルト・オピッツ ピアノリサイタル ベート―ヴェン 最後の3つのソナタ、バガテル

 ペーター・レーゼルと共にドイツ・ピアノ界を代表する大御所、ゲルハルト・オピッツがベート―ヴェン生誕250年記念として、ベートーヴェン、最後の3つのソナタ、最後のピアノ作品となった6つのバガテル、Op.126によるプログラムでリサイタルを行った。(11日 東京オペラシティ コンサートホール)

 新型コロナウィルスで外来演奏家の来日公演が中止・延期になったり、外来演奏家の招聘が困難になったため、日本人演奏家たちの活躍の場が増えた。それでも、夫人が日本人、親日家であるオピッツのリサイタルが実現したことを喜びたい。

 ベートーヴェン、最後の3つのソナタではオピッツの円熟した、味わい深い世界が広がった。第30番では、天国と現世との対比が描かれていた。第3楽章の変奏曲では、追憶の中に現世との別れを告げるかのようなベートーヴェンの心境を描いていた。第31番は、追憶と現世との闘いを描きつつも、闘いとの勝利を告げるかのような演奏だった。第32番では、現世の最後の闘いとしての第1楽章、この世への別れを告げる第2楽章が見事だった。

 ベート―ヴェン最後のピアノ作品となつた6つのバガテル、Op.126には、この時期のベートーヴェンの自由な境地を描き出していた。

 残念ながら、レーゼルのリサイタルが2021年10月に延期となった。仮に、実現していたら、ドイツ・ピアノ界の大御所の競演となり、話題性が増しただろう。その面では残念だったものの、新型コロナウィルスの終息を祈りたい。

横山幸雄 ベートーヴェン ピアノソナタ全曲演奏会

 ショパン連続演奏会、ベートーヴェンを中心としたベートーヴェン・プラスによるコンサートシリーズを続けて来た横山幸雄が、ベートーヴェン生誕250年記念として、2日間でピアノソナタ全曲演奏会を行った。(5日、6日 東京文化会館)

 5日はOp.49の2曲を含み、Op.2からOp.31まで、ベートーヴェンがヴィーンにやって来てから、ソナタでの新しい試みを行い、新境地を開いていった全18曲、6日はOp.53「ヴァルトシュタイン」、Op.57「熱情」、Op.78「テレーゼ」、Op.81a「告別」、Op.106「ハンマークラヴィーア」から、最後の3つのソナタに至る全14曲を2日間で演奏した。

 ベートーヴェン、ピアノソナタ全曲演奏会の場合、1回あたり4曲ずつ、日を分けて行うことが通例である。それを2日間で行ったことに、新型コロナウィルスでコンサートなどが延期・中止になった今だからこそできることがあるという、横山の意図が明確に読み取れた。

 全体を俯瞰すると、ほころびが生じたことも見受けられた。しかし、横山がベートーヴェン・ショパンが自己のレパートリーの中心であることへの思いが読み取れ、また、演奏家としての円熟味も感じられた。

 上野学園大学教授であった際、上野学園の経営問題での改革運動を試みて、教授の座を追われた悲運に見まわれたとはいえ、名古屋芸術大学・エリザベト音楽大学でも教鞭を取り、後進の育成に当たる姿は見事である。多彩な活動ぶりが注目を集めている。今後の活躍にも期待する。

バッハ・コレギウム・ジャパン 第140回定期演奏会 ベートーヴェン 交響曲第5番 Op.67 ミサ曲 Op.86 ハ長調

 バッハ・コレギウム・ジャパン、第140回定期公演はベートーヴェン生誕250年にちなみ、交響曲第5番、Op.67、ミサ曲、Op.86、ハ長調によるプログラムであった。(東京オペラシティ コンサートホール)

 鈴木雅明は過去にベートーヴェンでは第4番、第5番、第9番、ミサ・ソレムニス、Op.123を取り上げて来た。第5番は調布国際音楽祭以来となった。私たちは、第5番を「運命」の名で親しんできた。レコード、CDでもシューベルト、交響曲第7番「未完成」との組み合わせでも耳にした。改めて、ピリオドオーケストラで聴くと、ベートーヴェンが意図したものがはっきり見えて来た。ベートーヴェンは、父親の存在を超越せんとした。酒飲みで、幼い頃から徹底したスパルタ教育を受けた父親。その父親を乗り越えた姿を表現せんとした。音楽家として名声を得んとして、ヴィーンなどへ出ようとしていた。初めてのヴィーンで、モーツァルトに接したものの、母親の病でボンに戻り、母親を看取る。ボンで教養を得て、ハイドンの誘いでヴィーンに出る。そして、音楽家として名声を得たとはいえ、耳の病が襲う。また、フランス移住も考えていた。これまでの総決算として生み出した交響曲であることを明確に示した。

 ミサ曲、Op.86、ハ長調はハイドンゆかりのエステルハーツィ侯爵からの依頼による。ベートーヴェンならではのドラマトゥルギーの表出も見所で、シューベルトはこれを聴き、音楽の道に進む決意を固めた。ミサ・ソレムニスと比べても遜色ない作品である。櫻田亮、加来徹をはじめ、中屋早希、布施奈緒子が素晴らしい歌唱を聴かせ、合唱も見事だった。このミサ曲ももっと、取り上げるべきではなかろうか。

 年末、交響曲第9番、Op.125の上演も決まり、楽しみである。

北とぴあ国際音楽祭 フランス・バロックオペラの栄華

 2020年の音楽界は新型コロナウィルスの影響で、外来演奏家・オーケストラのコンサートが軒並み中止・延期となった。また、当初、外来演奏家招聘によるコンサートでも、来日できなくなったため、日本人演奏家の出演機会が増え、名演が出ている。北とぴあ国際音楽祭にも影響が及び、リュリ「アルミード」上演がフランス・バロックオペラの栄華に変わった。(さくらホール)

 リュリ、マルカントワーヌ・シャルパンティエ、カンプラ、フランソワ・クープランの作品によるフランス・バロックオペラのアリア、重唱、組曲によるプログラムで、聴き応え・見ごたえ十分であった。後半は、上演予定の「アルミード」抜粋となった。波多野睦美・中嶋克彦・山本悠辱の見事な歌唱が光る。フランス語のディクションも十分だった。松本更羅のバロックダンスがコンサートに花を添えた。

 何よりも、朝倉聡の司会がコンサートに華を添え、楽しさいっぱいの一時となった。2021年12月10日、12日、「アルミード」上演の実現のみならず、新型コロナウィルスが収束に向かってほしい。