第55回 サントリー音楽賞受賞記念コンサート 近藤譲 サントリーホール サマーフェスティバル 2025 ジョルジュ・アペルギス 第35回 芥川也寸志 サントリー作曲賞 選考演奏会

 第55回 サントリー音楽賞を受賞した近藤譲が作曲したオペラ「羽衣」初演、サントリーホール サマーフェスティバル ジョルジュ・アペルギス、第35回 芥川也寸志 サントリー作曲賞 選考演奏会、8月下旬、夏の終わりを告げるかのような時期、充実した内容であった。(8月28日 29日 30日 サントリーホール)

 近藤譲 オペラ「羽衣」、世阿弥による能楽に基づく。近藤は、三保の松原で天女が松にかけ置いた天女の羽衣を持ち帰ろうとした漁師と天女のやり取りが、バロック・オペラの舞台となったギリシア、アルカディアを舞台として展開する人間のドラマとの関連性を捉えつつ、三保の松原の情景から描き出した。漁師(メゾ・ソプラノ)、語り手、天女(ダンサー)による情景として描く。語り手は漁師・天女の台詞を語り、歌い手も漁師・天女を歌う。天女はダンサーが演ずるのみとなっている。能楽・オペラが見事に結びついた舞台となり、セミ・オペラ形式の上演となった。加納悦子の見事な歌唱が光った。

 アペルギスのオーケストラ作品、アコーディオン協奏曲。テオドーロ・アンゼロッティの卓越した音楽づくりが光った作品。オーケストラのためのエチュードⅥ,Ⅶ,Ⅷ。演奏時間は、Ⅵが1分30秒、Ⅶが3分30秒、Ⅷが11分と明示している。その中で、オーケストラがどれだけ音楽を具現化して、1つの響きとするかを問う作品である。オーケストラの根源を問う作品でもあった。また、スペインの作曲家、ハビエル・キスラント「ルクス・プルウィア」が世界初演で、アルゼンチンの詩人、エンリケ・バンクス(1888-1968)「庭に夜明けが差し込み」に基づいた作品。夜明けから夕陽が沈む1日の情景を描いた。聴き応え十分。ハンガリーの作曲家、ジェルジ・クルターク「石碑」Op.33も演奏された。音楽活動を共にしたアンドラーシュ・ミハーイへの追悼として作曲したもの。聴き応えあった。エミリオ・ポマリコ、東京交響楽団の演奏は見事だった。

 今年で生誕100年を迎えた芥川也寸志の記念として、出世作「交響管弦楽のための音楽」から始まった。全体を聴き、黛敏郎にも大きな影響を与えた作品であると感じた。黛の「トーン・プロレマス」「饗宴」には、芥川に触発された面がある。その意味でも大きな意義があった。第33回の受賞者、向井航「クィーン」は、今の日本・世界に警鐘を鳴らした作品として大きな意義があった。アメリカ、ドナルド・トランプが大統領になり、「自国第1主義」が世界的に蔓延り、極右が台頭した。日本でも、参議院議員選挙での参政党躍進、「日本人ファースト」を唱えたこと。参政党の正体があらわになり、多くの人々が警戒するようになった。そうした風潮を音楽で見事に批判した、メッセージとしての音楽を聴きとることができた。音楽家がメッセージとして、世の中に音楽を発信したことは、レナード・バーンスタイン以来ではなかろうか。バーンスタインはベトナム戦争などにも音楽などでメッセージを発信し続けた。世界中に極右が台頭する今、向井が警鐘を発する音楽を作曲したことは、重い意義があった。

 候補作は松本淳一「空間刺繍ソサエティ」、廣庭賢里「The silent girl(s)」、斎藤拓真「アンティゴネーとクレオン」が上がった。どの作品を聴いても、心に響くものがなかったようである。松本の場合、向井が受賞した第33回にもノミネートされていたから、今回こそという思いだっただろうか。受賞となった。最近のコンサートを聴く限り、心に響く作品がない。もっと、心に響く音楽がノミネートされ、受賞することを切望しておく。