伊藤友計は東京外国語大学、東京芸術大学に学び、西洋音楽の本質たる調性・和声の本質を解き明かした著作を講談社から出版した。それが「西洋音楽の正体」である。
伊藤が西洋音楽の本質としての調性・和声が確立した起源とした作品は、オペラの父、クラウディオ・モンテヴェルディのマドリガーレ「つれないアマリッリ」である。中世に確立した教会旋法が16世紀に調性・和声へと発展、バロック音楽以降、300年余りに渡り、西洋音楽の主役たる位置を確立した。18世紀、フランス・バロックの巨匠、ジャン・フィリップ・ラモーは12の長短調、近代和声学を確立、今日に至っている。それが、リヒャルト・ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」での半音階法により、近代和声学解体へと進み、アルノルト・シェーンベルク、アントン・ヴェーベルン、アルバン・ベルクによる12音技法に至る。
伊藤は、調性・和声が自然であるかという問いに、ルイ・エクトル・ベルリオーズ、ヘルマン・ルートヴィッヒ・フェルディナント・フォン・ヘルムホルツ、マシュー・シャーロウの批判に言及、ラモーの理論の限界も指摘する。それでも、和声が音楽を形成する原理たることを結論付けている。
今まで、音楽学では、調性・和声にこれだけ踏み込んだものが出てこなかった。今回の伊藤の著作がきっかけとなって、西洋音楽の本質たる調性・和声論が手で来ることを期待する。
(講談社 1750円+税)
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藤田伊織 (月曜日, 09 8月 2021 09:10)
調性・和声の確定的スタートは、バッハの平均律だと考えます。しかし、その中にすでに、12音音楽の芽があったり、逆に教会旋法への敬意が見られたり、単純に平均律だけの曲集ではありませんでした。一つあげるとすれば、平均律第1巻の第24番の前奏曲の第1小節のバスの上昇する音階は単純なロ短調の音階ではありません。第1小節の低音部の動きは、「ロ 嬰ハ ニ ホ 嬰ヘ 嬰ト イ ロ あるいは B C# D E F# G# A B」で、トが嬰トに(GがG#に)なっています。これはイ長調の音階のロから始まるドリアンです。(ハ長調での二から始まるのと同じで、レミファソラシドレです。)この前奏曲の低音部と高音部を上下入れ替えて演奏しますと、ジャズのようになります。レミファソラシドレを使った一番有名な曲は、マイルス・デヴィスの So What だろうと思います。
もう一つ付け加えさせていただくと、第1番の前奏曲は、単純な和音のアルペジオのように見せていますが、この一曲の中に、ワーグナーなどがよく使った、三種類の「減七の和音を」すべて埋め込んでいます。「減七の和音を」はこの三種類で12音全てを網羅するのです。よく第24番のフーガが12音全てを使っているといわれますが、最初の前奏曲で、すでにさりげなくそれをしていたのでした。
こうした内容を「聖律の音楽」をいうウェブページでデジタル演奏とともに公開しています。