野平一郎 ベートーヴェン ピアノ・ソナタの探究

 野平一郎がベートーヴェン、ピアノ・ソナタに関する著作を出版している。32曲全体ではなく、第1番、Op.2-1、第7番、Op.10-3、第8番、Op.13「悲愴」、第14番、Op.27-2「月光」、第17番、Op31-2「テンペスト」、第21番、Op.53「ヴァルトシュタイン」、第23番、Op.57「熱情」、第26番、Op.81a「告別」、第29番、Op.106「ハンマークラヴィーア」、第30番、Op.109、第31番、Op.110、第32番、Op.111を取り上げ、作品分析のみならず、ベートーヴェンの音楽と20世紀音楽との繋がりまで言及している。

 野平が日本を代表する作曲家、ピアニストとして、これほど刺激的なベートーヴェン論を打ち出したことは画期的だろう。読み応え十分な著書である。パリ音楽院への留学、フランス、ポンピドーセンターにも在籍、フランスの20世紀音楽にも精通していたことが、野平のベートーヴェン論を画期的なものにしている。

 第32番、Op.111、第2楽章についても変奏曲とソナタ形式を混合した楽章であるとする新説には頷ける。第4変奏までを変奏曲と見た上で、最後の第5変奏を再現部と捉えた説は説得力がある。中声部の和音による旋律線がついただけならば、これはソナタ形式の再現部と見てもよい。

 第30番、Op.109、第3楽章での主題の再現がバッハ、ゴールドベルク変奏曲、BWV988への回帰であり、ゴールドベルク変奏曲でデビューし、死の前年に再録音したグレン・グールドを引き合いに出し、グールドがこのソナタを再録音したらどうだったかと言及したくだりを読んだ時、そうなったらどうなったかと考えた。仮に、グールド研究の第一人者、宮澤淳一が野平の著作を読んだ際、このくだりをどう感じたか。これは聞きたい。

 これだけ刺激的、画期的なベートーヴェン論はないだろう。必読すべき一作である。

 

(春秋社 4500円+税)