西原稔 ドイツ・レクイエムへの道 ブラームスと神の声・人の声

 西原稔によるブラームス研究書として、「ドイツ・レクイエム」に関する研究書が出た。ブラームスの声楽作品の大作「ドイツ・レクイエム」を中心としながら、ブラームスの他の作品との関連付けを行い、ブラームスの音楽の本質を突いた秀作といえよう。

 西原はブラームスのリート創作史をはじめ、「埋葬の歌」をはじめとした合唱作品、大規模なものでは「運命の歌」、「アルト・ラプソディー」、「悲歌」などの作品、ドイツ民謡集にも言及、ブラームスとキリスト教の関わりを解きながら、ブラームスがルネッサンス・バロック音楽を研究しながら、如何にして自作に活かした過程を解明している。殊に、「ドイツ・レクイエム」と「マゲローネのロマンス」との関連性を取り上げた箇所は、この2つの作品が表裏一体をなしていたことが明らかになって来た。

 また、協奏曲・室内楽曲・ピアノ作品にも触れている。シューマンの主題による変奏曲、Op.9に関する箇所はピアニスト、ピアノ学習者は必読だろう。ヘンデルの主題による変奏曲、Op.24もむろんのことである。

 ブラームスがルネッサンス・バロック音楽研究を進めた背景に、シューマンが所蔵していた楽譜コレクションがあった。これは、ベートーヴェンにも言える。ベートーヴェンもルドルフ大公のコレクションに通い、バロック音楽研究にいそしんでいた。シューマンの場合、19世紀に起こったセシリア運動をはじめ、メンデルスゾーンによるバッハ復興、市民社会でのルネッサンス音楽復興も大きいだろう。それらの動きが一体化して、ブラームスに繋がったと言えようか。ブラームス研究書では傑出した一冊である。

 ただ、いくつか文字の脱落、誤字などがあった。258ページの「ドイツ・レムイエム」、「ブラーム(ス)が古楽」があったため、再版の際、訂正を願いたい。

 

(音楽之友社 3900円+税)