東京二期会 ベートーヴェン フィデリオ Op.72

 ベートーヴェン生誕250年とはいえ、新型コロナウィルスのため、多くのコンサート・オペラ上演が中止・延期となった。東京二期会による「フィデリオ」上演は、当初は指揮ダン・エッティンガーだったものの、大植英次に変更となった。(5日、6日 新国立劇場)

 深作健太の演出はナチズムの象徴、アウシュヴィッツに始まり、1945年~2020年に至る戦後75年の世界・ドイツの歴史を見据え、ベートーヴェンがこのオペラで意図した「希望」「自由」を見事に表現したと言えよう。

「アウシュヴィッツの悲劇があるから今がある。」

とアンゲラ・メルケル首相をはじめ、ドイツの政治家たちは苦い歴史を忘れずにいる。日本はどうだろう。日本は近代日本の失敗たる戦争の歴史に向き合っていない。これを改めて感じた。

 大植は、日本人として初めてバイロイト音楽祭の指揮台に立った。レナード・バーンスタインの基で「フィデリオ」を学んだことに加え、ニコラウス・アーノンクールにも教えを請うたという。その成果を見事に発揮した。

 今回の上演では「フィデリオ」本来の序曲ではなく、第2稿に用いた「レオノーレ」序曲第3番を序曲に用いたことからしても、深作の演出の意図に沿ったものとしても成功した。舞台が監視国家となり果てた旧東ドイツの刑務所と言う設定も頷ける。

 フロレスタンを歌った福井敬の素晴らしい歌唱、小原啓楼のストイックな歌唱は聴きもの。レオノーレを歌った土屋優子、木下美穂子が持ち味を発揮した歌と演技を見せた。ロッコを歌った妻屋秀和、山下浩司も舞台を盛り上げた。マルツェリーネを歌った富平安希子、愛もも湖、ヤキーノを歌った松原友、菅野敦も持ち味たっぷりの好演だった。悪役ピツァロは大沼徹、友清崇が見事に演じた。最後に登場するドン・フェルナンド、黒田博、小森輝彦が重量感ある歌唱と演技を見せた。

 戦後ドイツ史は縮小された領土、冷戦による東西分断国家時代から再統一となった。しかし、東西の格差が残ったり、極右政党も出て来た。そんな中で、ベートーヴェンが唯一のオペラで表現したかった「希望」「自由」の何たるかを再考するためにも「フィデリオ」の存在価値がある。もう一度、私たちはベートーヴェンが表現した「希望」「自由」を考えてみよう。