ユーディ・メニューイン、ヴィルヘルム・ケンプ ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ Op.23 Op.24「春」

 ユーディ・メニューイン、ヴィルヘルム・ケンプによるベートーヴェン、ヴァイオリン・ソナタ全集はOp.23、Op.24「春」へと進む。ベートーヴェンが新しい試みを行いつつ、円熟の境地へと進んでいく時期に当たる。

 Op.23はイ短調、ピアノ・ソナタではこの調性では作曲していないため、珍しい。第1楽章。メニューインのヴァイオリンには円熟の味わいを感ずる。ケンプのピアノがそれを引き立て、内面豊かな音楽に仕上げている。深み、豊かな歌心に支えられた名演になっている。

 第2楽章。ケンプの深みのある音色が聴きもの。メニューインがこれに応じ、素晴らしい対話になっていく。フーガ風の部分でのやり取りも深みがあって素晴らしい。円熟の巨匠たちの味を楽しみながら、一時を味わう時は最高だろう。

 第3楽章。ピアノとヴァイオリンのやり取りで始まる激しい流れ、メニューイン、ケンプが深みある音楽作りを進めている。ここにはベート―ヴェンが新しい取り組みを進めていることをうかがわせる。

 Op.24。第1楽章の歌い回しにはメニューインの円熟した歌いぶりをしっかり聴き取ることができた。ケンプの歌心溢れ、慈愛に満ちた音色が春を伝える。展開部のスケールの大きさも聴きどころである。再現部でも味わい深い音楽が展開されていく。コーダでも抒情性豊かでスケールの大きな音楽が締めくくっていく。

 第2楽章。メニューイン、ケンプがじっくり春の喜び、小川の流れを伝えていく。じっくり聴き入っていくうちに春爛漫の風景が伝わってきた。

 第3楽章。スケルツォはゆったり目のテンポを取り、歌を大切にしている。トリオではベートーヴェンらしさが滲み出ている。円熟の芸だろう。

 第4楽章。メニューイン、ケンプが春の喜びを伝え、じっくり歌い上げて行く。中間部では素晴らしい至芸を聴かせていく。春の喜びがたっぷり歌われ、歓びに満ちたコーダへと進む。たとえ、技巧的に衰えがあろうと音楽の深さ、豊かさは若手には及ばない。

 メニューイン、ケンプが老齢に達してもベートーヴェンの音楽がしっかり伝わる。そんな、味わい深い名演、遺産である。