ユン・イサン 生誕100年

 11月18日、東京大学で韓国の作曲家、ユン・イサン生誕100年を記念してシンポジウム、コンサートが行われた。

 日本統治下の朝鮮に生を受け、朝鮮が日本の支配から脱したとはいえ、南北分断国家となりつつも祖国統一を願い続け、ドイツ、ベルリンで世を去ったユン・イサンは、韓国では「北朝鮮のスパイ」などと汚名を着せられてきた。1967年、ドイツから韓国に拉致、死刑判決を言い渡されたとはいえ、当時の西ドイツ政府などの抗議で九死に一生を得た。殊に、パク・チョンヒ、パク・クネ親子、イ・ミョンバクといった保守政治家たちがユン・イサンを敵視してきた。

 今回のシンポジウムには在日コリアン2世で、東京経済大学で教鞭を執るソ・キョンシク、北海道大学留学中のキム・ソンミン、ソウル大学で教鞭を執るイ・キュンジュンの3氏、長木誠司、小野光子、沼野雄二、福中冬子の4氏による発表、パネル・ディスカッション、秋山友貴、石井智章、山根風仁によるコンサートで締めくくった。

 ソ・キョンシク氏はユンへの思い入れが伝わった。ただ、発表時間が長引いたことが惜しかった。長木誠司氏は黛敏郎との共通点、小野光子氏は武満徹との共通点に言及した。リ・キュンブン氏はユンとアジアとの問題を提起、キム・シュンミン氏は未だに韓国での保守政治家たちにおけるユンへの敵視に触れ、沼野雄二氏は1980年代以降のユンの作品を再検証した。福中冬子氏は音楽史から見たユンに触れ、締めくくりとした。

 コンサートではオーボエのための「ピリ」、ピアノのための「インターリューディウムA」、オーボエとチェロのための「東西ーミニアチュール」、チェロとピアノのための「空間」を取り上げた。東京芸術大学出身の若手演奏家たちによる演奏は好演で、ユンが祖国朝鮮に根差した作曲家であることを改めて認識した。

 20世紀のアジア史に翻弄され続けた作曲家ユン・イサンが、韓国での受容がどこまで進むだろうか。