ピーター・ゼルキン ピアノリサイタル

 アメリカを代表するピアニスト、ピーター・ゼルキンがモーツァルト、バッハによるリサイタルを行った。(1日 すみだトリフォニーホール)

 前半はモーツァルト、アダージョ、K.540、ピアノソナタ、K.570、後半はバッハ、ゴールドベルク変奏曲、BWV.988。メインはゴールドベルク変奏曲である。

 モーツァルトは、アダージョの暗く、心を打つ音楽が心に響いて来た。ソナタ、K.570は澄み渡ったモーツァルトの世界を描きだし、歌心に満ちていた。

 バッハ、ゴールドベルク変奏曲は繰り返しを入れたり、ストレートで演奏したりと変化に富んでいた。繰り返しを入れた際、装飾音を変化させたりして、創意工夫に満ちていた。第25変奏はこの世のものとは思われない、大変美しい変奏で、繰り返しを入れると5分かかってしまう。ピーターはストレートで通し、かえって感銘深い演奏になった。第30変奏、クォドリベットでは、この部分に組み込まれた歌をくっきりと浮び上がらせた演奏は注目すべきだろう。多くの演奏ではかえって聴き取れない。チェンバロの演奏でも同様である。そうした面に光を当てたことは高く評価したい。全曲が終わった後の余韻が心地よかった。

 ピーターは1965年にデビュー盤としてレコ―ディングした後、1986年、1994年と3度録音している。4度目のレコーディングも済ませたという。尤も、父ルドルフ・ゼルキンは1921年、ベルリンのリサイタルでアンコールとして、この変奏曲を演奏した。しかし、レコーディングはしなかった。ゴールドベルク変奏曲をデビュー盤としたのがグレン・グールド、マルティン・シュタットフェルトなどがいる。

 ピーターが偉大な父ルドルフを超える存在になるには、様々な形で自分探しを続けた。ピアニストとしてのキャリアを中断、一家で世界中を放浪した上で、ピアニストとしての自分を再確認、武満徹をはじめ、現代音楽の作曲家たちと交流して、己の道を確立したことは大きいだろう。そして、古典に立ち返って父を超える存在になった。ゴールドベルク変奏曲への取り組みも成長過程の一つだろう。

 父ルドルフがラジオ番組でグールドの談話を聞いた時は腹立たしかったとはいえ、演奏を聴くと良しとしたという。仮に、ピーターがグールドの放送番組を聴いていたらどう感じたか。ゴールドベルク変奏曲を聴き、ふと考えてしまった。