松本和将 ベートーヴェンツィクルス 第8回

 松本和将がセミナーを交えて行って来たベートーヴェンツィクルスが今回で完了した。最後の3つのソナタ、第30番、Op.109、第31番、Op.110、第32番、Op.111。この3つのソナタは、ベートーヴェンがマクシミリアーネ、アントーニア・フォン・ブレンターノ母娘に献呈せんとして作曲したため、青木やよひは「ブレンターノ・ソナタ」と呼んでいる。Op.109はマクシミリアーネに献呈したものの、Op.110は無献呈、Op.111はルドルフ大公への献呈となった。ベートーヴェンはこの3つのソナタをロンドンで出版した際Op.110,Op.111をアントーニアへ献呈できた。

 Op.109は第1楽章の深い味わい、第2楽章のドラマトゥルギー、第3楽章の深遠な世界が聴きものだった。Op.110は第1楽章の素晴らしい歌、第2楽章の過酷さ、第3楽章の悲しみとフーガの荘厳な世界を浮き彫りにした。Op.111は第1楽章のドラマトゥルギーと諦念、第2楽章の天上の世界を描き、ベートーヴェンの到達点を示した。

 コンサートを締めくくるにあたり、松本自ら、ベートーヴェンの後期の世界には至っていないとはいえ、生涯ベートーヴェンを弾き続けたいと語った。松本が再び、ベートーヴェンに取り組むなら、もう一度聴いてみたい。その時、より深遠な世界を表現できるようなったら、ベートーヴェンの本当の姿に到達できるだろう。