堀朋平 フランツ・シューベルトの誕生

 2005年からシューベルト研究に取り組んで来た堀朋平の集大成で、2013年、東京大学大学院人文社会系研究所に提出した博士論文である。

 フランツ・ペーター・シューベルトが生まれ育った歴史・社会背景、文学・思想背景を軸に、シューベルトの中心となった歌曲を軸に、文学ではゲーテ、シラーから初期ロマン主義のノヴァーリス、シュレーゲル、シューマンに影響を与えたジャン・パウル、フランツ・フォン・ショーバー、ヨーゼフ・シュパウン、ヨハン・マイヤーホーファー、ヨーゼフ・クーベルヴィーザーといった友人たちとの交流からシューベルトの本質を論じている。

 また、未完に終わったピアノ・ソナタ、D.571、連弾のソナタ「グラン・デュオ」D.812、交響曲第7番、D.759「未完成」などに触れ、シューベルトの音楽の本質に迫っている。あくまで歌曲中心とはいえ、シューベルトを理解するには歌曲は欠かせない。その上、同時代人でもあったベートーヴェンの影響にも言及している。ベートーヴェンの「運命の動機」がシューベルトでは「痛み」となっていることも指摘する。

 シューベルトはオペラも作曲している。そのひとつ、「アルフォンソとエストレッラ」の真価が評価されていない最大の原因は、ショーバーの台本があまりにも冗漫だということにある。しかし、堀はショーバーの台本がノヴァーリス風メルヒェンに基づくものだということを明らかにした。シューベルト、ショーバーがノヴァーリス、シュレーゲルの影響を受けていたことは新しいシューベルト像への第1歩だろう。

 この書は日本におけるシューベルト研究書として真っ先にお勧めしたい一冊である。値段から見ると高価とはいえ、シューベルトの交響曲、室内楽曲、ピアノ曲研究、演奏への一里塚となる。

 

(法政大学出版局 5500円+税)