出版の現実を見る

 音楽評論家、林田直樹がメルマガ「よく聴く、よく観る、よく読む」で日本の出版業界の現実を取り上げていた。若手ライターがある指揮者の評伝を翻訳、出版しようとした際、版元との交渉を行っても定価3500円、初版1500部で収入は原稿料で1万円、2万円だという。これはあまりにも出版する側をバカにした話ではなかろうか。

 自分たちで苦労して書き、訳したものが原稿料という形で買い叩かれ、印税すら入ってこないようではまともな本が出しにくくなるし、ガセネタ本が横行するだけではないか。出していただけるならありがたいと思うだけではなく、自分が印税を受け取る権利も主張して、出版社などとの関係を永続的な関係にして、自分の権利を守ることにある。そうでないと、本当によいものが残らなくなってしまう。

 とはいえ、翻訳書の場合、ひどい誤訳・原書の読み落しで売り物にならないものは即座に絶版にすることのみならず、早期に新訳出版可能にしてもいいだろう。実際、マイケル・クラークソンがグレン・グールドの恋愛を取り上げた著作が道出版から岩田佳代子訳「グレン・グールド シークレットライフ」で出たとはいえ、誤訳・原書の読み落しがひどかったため、新訳を起した。現時点では道出版との兼ね合いから新訳出版は不可能という。少なくとも2~3年待つしかない。これではグールド・ファンはもとより、音楽愛好家、研究家たちに正しい版を伝えられない。

 翻訳書の場合、出版社が版権を取得、翻訳家に依頼することが多い。その場合、大手出版社は専門分野で定評ある翻訳家に依頼したり、専門家に依頼するようである。専門書の出版では専門家に依頼することが当然だろう。ただ、いささか問題ある出版社が版権を取得すれば、翻訳家に依頼してもお門違いの人材に依頼すれば、誤訳などかあってもチェック、修正もきかないケースもある。

 そろそろ、日本の出版業界も体質改善の時期に来ている。本を出す側が自分たちの権利をしっかり主張して、永続的な関係を作ることはもとより、原稿料ごときで買い叩くようなことは止めて、出した側の権利も認め、良い関係を築き、良いものを出してはどうか。翻訳書出版にしても、訳者を厳選してほしい。