ここ最近、日本音楽学会の支部定例研究会、全国大会で18世紀後半から19世紀市民社会におけるコンサート、合唱運動に関する研究発表を見ると、市民社会と音楽とのかかわりがどう進んだかが明らかになって来た。この書もその一つとして注目すべきである。
まず、19世紀前半のオペラ・ブーム、パリのコンセール・スビリチュエルをはじめ、ドイツのゲヴァントハウス・コンサート、ロンドンのバッハ・アーベルコンサート、庭園を利用したプレジャー・コンサート、ロンドンのフィルハーモニック・コンサート、パリ音楽院コンサート、パリでのプロムナード・コンサートに発展する。
19世紀前半のコンサートではオペラの序曲、アリア、重唱、合唱、ヴィルトゥオーソによる即興演奏などが中心を占めていた。その中で、オペラのアリアなどによるパラフレーズも見せ場の一つになっている。しかし、ヴィルトゥオーソの時代が終わりを告げると交響曲、協奏曲、管弦楽曲によるプログラム構成が主流となり、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの交響曲がプロムナード・コンサートのような、大衆性が強い場所でも演奏されるようになった。
19世紀といっても貴族階級の力は強く、限られた階層向けのコンサート・シリーズもあった。市民社会ではプレジャー・コンサート、プロムナード・コンサートのような気楽なものが中心だった。そのような場でも交響曲が演奏されたことは、市民社会もコンサート・ホールに足を運ぶようになったといえようか。それでも、ベートーヴェン、交響曲第9番の演奏が少なかったことは、多くの人々には難解だったかもしれない。ロマン主義の交響曲受容も難しかったことも理解できよう。
これは多くの研究の成果を総合、かつ体系的に論じたもので、19世紀市民社会と音楽とのかかわり、ロマン主義音楽史にも一石を投じるだろう。
(岩波書店 2200円+税)
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