調布音楽祭 2016 モーツァルト・ガラ・コンサート

 調布音楽祭 2016、モーツァルト・ガラ・コンサートは1783年3月23日、ヴィーン、ブルク劇場でのコンサートを再現したもので、2002年11月15日、16日、北とぴあ国際音楽祭記念事業として行った「モーツァルティッシモ」に続くものとして評価したい。

 今回はフォルテピアノに小倉貴久子、森下唯、ソプラノ独唱に松井亜希、臼木あい、高橋維を迎え、鈴木優人指揮アンサンブル・ジェネンスのもと、素晴らしい成果を上げた。

 モーツァルトはオペラ「イドメネオ」K.366初演後、ザルツブルク大司教ヒエロニュムス・フォン・コロレド公爵からヴィーンに赴くよう命令を受け、大喧嘩の挙句、ヴィーンに住むこととなった。ヴィーンに移り住んでから2年後の1783年、ヴィーンで本格的なコンサートを開催、時の皇帝ヨーゼフ2世も臨席、1000人余りの観客の熱狂的な拍手の中、大成功を収めた。

 交響曲第35番、K.385「ハフナー」第1楽章-第3楽章の後、自作のオペラ「イドメネオ」、「ルーチョ・シッラ」K.135からのアリア、コンサート・アリア、K.369、K.416、ピアノ協奏曲第13番、K.415、第5番、K.175、コンサート・ロンド、K.382、即興演奏、パイシェッロのオペラ「哲学者気取り」の「めでたし、主よ」による変奏曲、K.398、グルックのオペラ「メッカへの巡礼」の「バカ者どもは考える」による変奏曲、K.455、「ハフナー」第4楽章で締めくくった。

当時、交響曲は全曲通して演奏することがあったかどうかは不明とはいえ、終楽章を演奏して締めくくりとしたことは確かだろう。アリア、協奏曲、即興演奏、変奏曲によりオペラ作曲家、ピアノの名手としてのモーツァルトの魅力を伝えるためにも十分だっただろう。

 とりわけ小倉貴久子、森下唯が好演で、日本におけるオリジナル楽器演奏家の層が厚くなったことを示した。また、松井亜希、臼木あい、高橋維の歌唱も聴きごたえ十分だった。

 モーツァルトがコンサートを開けなくなった背景として1787年-1791年、オーストリアとオスマン・トルコ帝国との戦争があったことが明らかになっている。この間、ヴィーンではコンサート開催が難しくなり、モーツァルトもコンサートを開けなくなった。モーツァルトの人気があっても。社会情勢が許さなかったからである。トルコとの戦争が終わった1791年、モーツァルトが35歳でこの世を去ったことを思うと、かつての華やかな時とのコントラストを感ずる。そういう意味でも大きな意義があった。