宇野功芳 逝去

 日本を代表する音楽評論家の一人、宇野功芳氏が老衰のため、86歳で亡くなった。音楽の本質、演奏の本質を捉えた評論は多くの音楽愛好家たちがレコード購入、コンサートへの一つの指針となった功績は大きい。また、帝王ヘルベルト・フォン・カラヤンへの厳しい批判は今でも重要だろう。

 ただ、2013年、河出書房新社から出た夢MOOKでのカラヤン評を見ると批判はむろんのこと、功績にも言及している。

カラヤンが世界の帝王に躍り出た根底には、歴史の転換期における「世渡り」に長けたことを指摘、晩年のフルトヴェングラーが、聴衆がカラヤンへの賛辞を上げるにつれ、自分の時代の終わりを悟っていたことを見抜いた。その上で、カラヤンがLP、CD、映像を活用したこと、多くの若い才能を見出したことも評価する。

 一方、カラヤンが「若々しさ、カッコよさ」にこだわったとする指摘には全面的には同調できない。1980年代のベートーヴェン交響曲全集を聴くとザビーネ・マイヤー事件以来、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との関係がぎくしゃくしたこともあってかある種の緊張感が感じられ、晩年のカラヤンの心境も伝わってきた。ブラームス交響曲全集にも同じ傾向が見られる。

 ピアニストではリリー・クラウス、ヴィルヘルム・バックハウス、エリック・ハイドシェックへの評価が高かった。晩年、HJ・リムも評価した。リムのベートーヴェンには洞察力があってもアントン・シントラ―、ロマン・ロランによるベートーヴェン像が根強い。

 ともあれ、音楽評論に一時代を築いた音楽評論家の功績をたたえ、平安を祈りたい。