宇野功芳先生お別れの会

 日本の音楽評論家の大御所、宇野功芳氏のお別れ会が東京、九段下のホテル、グランドパレス2階で音楽、出版関係者など多くの人々が集い、盛大に行われた。

 家族ぐるみでの付き合いだったという遠山一行氏夫人でピアニスト、遠山慶子氏、中田喜直氏夫人、中田幸子氏など、宇野氏ゆかりの人々がそれぞれの思い出を語り、和やかな宴となった。氏が高く評価していた鳥羽泰子、佐藤俊成、氏が育成していたアンサンブル・フィオレッティの演奏が華を添えた。最後に、由美子夫人による挨拶で一連の宴を締めくくった。

 氏の著作を見ると、演奏家論は特定の演奏家への評は変わらないとはいえ、新たに登場した演奏家への激賞ぶりも目だつ。それが新たな視点に立った評にもつながる。ピアニストではHJ・リム(リム・ヒョンジョン)への評価が高いものの、彼女の演奏、特にベートーヴェンではもっと視野を深めてほしい。リムのトークを聞いた際、ベートーヴェンに取り組むら、セイヤー・ソロモン・ロックウッドのベートーヴェン伝を読むべきだと感じた。フランスのエリック・ハイドシェックの評価が、長い低迷期だったハイドシェックの復活にもつながった。宇野の評価が演奏家の発見、復活につながったことは評価したい。ただ、全てその通りかと言い難い面もある。

 一方、カラヤンへの厳しい評価も忘れてはいけない。とはいえ、全てが当てはまるか。カラヤンが最もよかった時期は1960年代から1970年代前半だった。その頃のカラヤンの演奏も聴き直すべきときではなかろうか。1980年代のベートーヴェン、ブラームスの交響曲にはある種の緊迫感が漂っている。ベルリン・フィルハーモニーとのギクシャクした関係がかえって良いものをもたらしていた可能性もあろう。その上で、宇野のカラヤン評を読み直してみることが大切だろう。

 とはいえ、宇野の著作全集刊行も考えてはいかがだろうか。その全体像を示すことで、再評価にもつながるだろう。吉田秀和にも全集があり、これも再構成すべきではなかろうか。